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ヒストリー3

大変長らくお待たせしました。プロジェクト車両の製作にかまけてhpの更新を早めにアップする、と言っておきながらこんなに時間がかかってしまいました。誠に申し訳ございません。現在の状況はほぼ完成し皆さまにお見せできると思います。その前に前回のブレーキ試験の続きをお話ししたいと思います。

ついに始まってしまったブレーキ技術基準、二輪車にこんなに明確な技術基準は初めてではないでしょうか。始まってしまったものはしょうがないので何とかクリアしたいと思い、そこで先ずは試験場の確保から始まります。組立車認定による技術基準適合試験はまだ実績がないので運輸局の方でも実際の試験場が判らない、でも公的機関はあるので相談して下さい,とのことで紹介された「日本自動車輸送技術協会」と「日本車両検査協会」に電話をしましたが、二輪の試験は知っているが、まだ当方で実施するかどうかは判らない、とのことでいろいろ探したところ、茨城県にある日本自動車研究所に電話したところ、「あなたが、ライダーになってくれるならいいですよ」との返事を頂き、早速準備に取りかかりました。ブレーキ試験時の装備する測定機器は、まず減速度計、油圧センサー、油圧モニター、レコーダー、ウオーターポンプ、水タンク、以上です。上記の機器は二輪用というのは殆どなくて、4輪用や工場のライン管理等に使用している機器を加工して取り付けました。4大メーカーさんにしてみればこんな事は朝飯前の事ですが、私たちのような弱小メーカーにはとても大変で、いかに安い機器で測定をするかが成功の鍵になります。まずはテストの内容と機器の使い道についてお話しします

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この車両がメーカー以外初のブレーキ基準適合車両です。車名<オッテンバー>

テスト1 常温制動試験
このテストは通常のドライ状態でのブレーキテストです。しかし二輪免許の急制動のように止まればいいというものではなく、ブレーキのかけ方すなわち、ブレーキオイルの油圧をかけ始めから停止まで一定に保ちながら規定の減速度(減速度で良否判定します)で停止するまでどれだけ安定した制動能力を発揮できるかという試験です。
制動距離が短ければいいというものではありません。
そこで搭載する計測器はまず減速度計、油圧モニター、データーレコーダーです。
減速時計は、減速するとの中に入っているセンサーが動き歪み量を減速度に換算して減速度を表示します。歪み計本体を真下に向けると9.8m/s(1G)を表示します。
油圧計はマスターシリンダーを握った時の操作力を表示します。
データーレコーダーは試験中の時間と減速度波形、操作力を記録します。

テスト2 高速制動試験
最高速の80%の速度で規定の減速度以内で止まる試験です。
これは簡単です。現在のブレーキ性能であれば充分パスできる試験で、転倒しなければ誰でも合格できます。

テスト3 ウエットブレーキ試験
この名前を聞いて皆さまが想像するのは、水を大量にまいた路面を走行してブレーキを掛ける事とだと思います。しかしこれはブレーキ機器の試験なので、ディスクローターに直接水を噴射してブレーキの性能を測定します。テスト1の時に計測した油圧と同じ油圧を掛けて制動します。これがみそ。みなさん経験はありませんか? 雨の日にブレーキを掛けた瞬間、ほんの一瞬効かない状態があると思います。それなのです、その瞬間の減速度を測定するのがこの試験です。
なんと、ディスクローターに直接ポンプで1時間あたり15�の水を掛けるのです。
状況的には大雨(どしゃ降り、こんな日にはバイクに絶対乗らない)こんな感じでテストを行います。タイヤのテストではないのでブレーキローターに水を掛けます。
このときにウオーターポンプを使い規定量の水を噴射しますが、小さくて性能のいいポンプで、しかも12Vで水を使用できるものが見あたらず、とりあえずジェットスキー用の水排水ポンプ使用しましたが、噴射料が大きすぎて使い物になりませんでした。たまたま私の趣味はラジコンで、行きつけの模型屋さんに相談したところ、水もOKの燃料ポンプがあり噴射量も
ょうどいい感じなのでこのポンプを使用しました。
                                                                        
テスト4 フェード試験
ご存じの通り、アッチッチの状態で安定した制動力を発揮できるかどうかの試験です。
この試験はヒジョ~に気を使う試験で、アッチッチの状態を作りだすための規定が細かく用意されているのでそれに従わなければなりません。その状況設定をするには10�Hの距離を走行しブレーキの暖気(アッチッチ状態)をします。こう聞いてしまえば何の難しさはありませんが、この暖気というのはただ引きずって走るのではありません。これまたやっかいなもので10�Hの距離とは500�の距離を20回往復するわけで、それもただ往復するのではなく、常温テストの時と同様に初速と減速度が決まっていて、その初速から一定の減速度で減速し、連続して20回とも同じ状況を保たないとブレーキ暖気は終了できないのです。
暖気終了後、そのままフェード状態でブレーキ開始そして終了です。もし少しでも減速度及び操作圧力(ブレーキを握る力)が基準から外れるとまた初めから暖気のやり直しです。
ブレーキ暖気(アッチッチ状態)中の初速は70�Hですが、暖気終了後直ちに行うフェード試験ではその初速は60�Hになり、減速度も変わるので頭の中での切り替えが難しくとても難儀な試験でした。

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油圧モニターと減速度計です。

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マスターに油圧計を付けて操作力をモニター表示されます。

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ディスクローターに水を噴射するために配管が装備されています。

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テスト車両はこんな感じです。
写真が小さいので判りづらいですが、まるでICUに入っている救急患者のようです。練習場はご覧のような田んぼのあぜ道を利用してひたすら練習しました。

テストはこんな感じ行われるのですが、当然走行練習が必要となります。初めて練習した時はとても前を向いてブレーキをかけられる状態ではありませんでした。そりゃそうですよね、スピードメーターと油圧計・減速度計を同時に見て一定の減速度を保たなければならず、止まるまで測定器から目が離せないのですから。この走行練習はまず場所の確保から始まりました。なんといってもナンバーがないのですから、公道ではとても出来ません。そこで色々探していたところ、友人の田んぼのあぜ道が約600�の直線(なぜか舗装されていた)なのでそこをお借りして練習に明け暮れました。この場所は外から遮断されているためとても安全です。もしコースを外れても田んぼに落ちるだけ!。
練習の期間はなんと3ヶ月!、何とかうまく止まれるようになってデータもいい感じになってきましたが試験日の3日ぐらい前になった頃、突然減速度計の数値が自分が止まっている減速度(このころは体感で減速度が判るようになっていた)とは遙かに違うデーターを示し始めました。心の中で「ヤバイ!壊れた!」と叫びましたが、減速度計の構造を考えると、もしかすると車体に問題があるかもしれないと思い検討してみることにしました。この車両は2サイクルエンジン500cc単気筒なので、ものすごく振動があります。前述で書き忘れましたが、試験計測時ブレーキを掛けるときクラッチを切らなくてはいけません。純粋なブレーキのみの性能をチェックする試験なので、エンジンブレーキは排除しなければならないのです。このエンジンはビック2サイクルなので、回転が落ちる時ものすごい低周波の振動がでます。
そのとき減速度計を揺らすので、その影響で計測器が誤作動を起こしてしまったのです。そこで私たちは、クラッチを切るとエンジンが止まる様にクラッチスイッチとキルスイッチを連動させて停止時のエンジン振動の排除に成功しました。トライアス(レギュレーションみたいなもの)をよく読むと不要な振動の除去と書いてあるので試験には問題ありません。でもこのエンジン、始動時はかかりづらいので少し心配でした・・・。
そしてやってきました試験当日。試験場は茨城県にある日本自動車研究所です。テストメンバーは当社スタッフ高坂治、鈴木究、そして私中村正樹、3人で臨みました。私を除いてこの2人は最高に頼りになる人たちで、私はとても信頼しています。当社スタッフ高坂治君はとても器用で非常~に頼りになる男です。(何が起こるか判りません)特に鈴木究さん(通称Qちゃん、マラソンの高橋尚子とは違います)は私の幼稚園時代からの友人でわざわざ有給を取って、計測結果を集計する仕事をしていただきました。彼は日曜日のたびに練習を手伝ってくれたので集計には慣れています。
当日は曇りで今にも雨が降りそうでした。とても心配でしたが試験官と検討した結果、試験を決行することになり、まず事前の測定器や操作力計、排水量、車体重量のチェック等を行いました。この事前チェック、慣れていないため予想以上に時間がかかってしまい、次第に小雨が降りはじめ、イヤな予感を感じながら試験は始まりました。

常温、高速制動試験は問題なく終了合格!。残るはフェードとウェット試験です。
ウェット試験は雨が強くなる前に無事終了し合格しましたが、最後のフェード試験を始める頃には雨足も強くなり試験そのものを続行するかどうか迷いました。
しかし、仮走行でブレーキの温度をチェックして問題ないので続行決定!
まずは機器や車両の防水対策を施さなければなりません。そこで高坂治君の出番です。
彼の持ち前の器用さで段ボール材とガムテープを使い、素早く機器の防水対策をし何とか走れるようにしてくれました。

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でも私の中ではまだイヤな予感がしていました。
なんたってこの測定器は、二輪専用部品ではないため、雨などの環境には適していないのです。
それよりも車両の方も完璧な雨対策をしていませんでした。先にも述べましたが、フェード試験は20回のブレーキ暖気(ローターアッチッチ状態)が必要で、そのたびに振動を止めるためエンジンが停止するので今度は始動不良になるのが心配です。
とにかく試験は続行決定、フロントブレーキフェード試験がスタート!順調に暖気を重ねつつありましたが暖気ラスト2回を残す頃、私の予感は的中!、突然エンジンが不調になり、今にも止まってしまいそう・・。テスト中なので皆の待つピットに戻るわけにはいかず、ブレーキ暖気を続けるしかありません。奇跡的にもエンジンはすぐに再始動出来たもののエンジンは絶不調!心の中で叫んだ言葉は「治く~ん、なんとかして~!」。
絶不調のままでも何とかスピードは保つことができ、とりあえずテスト終了。
ピットに戻り、Qちゃんはすかさずレコーダーに入っているデーターを解析し試験官に報告。
結果フロントブレーキは合格!治君は私の心の叫びが聞こえたらしく、素早くキャブレター内の水の除去・プラグ交換・テスター関係の再防水対策を施し、あっという間に元気なオートバイに戻し、おまけにヘルメットシールドのくもり対策まで施してくれました。感謝!感謝!感謝!そして最後のリアブレーキのフェード試験です。書き忘れましたがこのブレーキ試験、前後独立したブレーキシステムの場合は別々に行わなければなりません。

雨が降り出して、イヤな予感がしている私と、オッテンバー

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雨対策を施しテストに戻るオッテンバーと私。
当社スタッフ,治君はアッという間に元気なマシンにしてくれました。

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データーを取りだして雨の中解析中のQちゃんです。

リアブレーキの暖気が順調に進み続けているとき、またしてもイヤな予感は的中!突然減速度計の針の動きが止まったのです。「わぁ!壊れた!」。ですが今やめるわけにはいきません。それまでの膨大な時間と試験費用を無駄には出来ません。幸いに油圧計は良好、減速度は体で覚えていたのでそのままブレーキ暖気を続行しました。暖気終了、直ちに速度をテストスピードに変更し不安いっぱいのまま最後のブレーキの瞬間、私の頭の中で「いけ~!」誰かの大きな声がしました。この瞬間まるで奇跡が起こったかのように今まで動かなかった減速度計が突然動いて数値を示し始めたのです。本当です。フェード試験はブレーキ暖気(ローターアッチッチ状態)をするための減速度とフェード試験時の減速度が違います。しかも止まらずにそのままフェード試験に移るため、実は少し不安だったのです。奇跡のように動き始めた減速度計のおかげで、リアブレーキの試験結果は合格でした。針が動かなかったあの数分間のデータも、レコーダーにはちゃんと減速度の波形が出力されていたのです。試験は全て終了、みんなで万歳三唱し、メーカー以外日本で初のブレーキ技術試験は合格することができました。            
しかし、テストは合格したものの哀しい知らせが私を待っていました。
私事ですが、その日は私の義父の心臓血管手術の日。手術がうまくいかずそのまま昏睡状態になり数日後亡くなりました。あのとき頭の中で「いけ~!」と聞こえた声は義父ではないでしょうか?
人はいろいろ言いますが、今でもあのとき計測器を動かしてくれたのは義父だと信じています・・・。今回、ブレーキに関してとても多くの事を学んだ気がします。ブレーキは闇雲に効くのではなく、いかなる状態でも安定した制動力を発揮できるか、また改造するにもただ組み合わせるのではなく車両の重量・タイヤ径・最高速度等も充分検討して決定する事の重要さをあらためて再認識しました(常識なんですが)。
テストを受けて思いましたが、やはりメーカーはすごいと思います。私たちはメーカーが作ったブレーキが問題ないという証明をしただけで、ブレーキメーカーにしてみれば「そんな試験合格して当たり前だ」と言うでしょう。彼らはもっと過酷な実験をし、膨大な時間をかけて研究し私たちに安全な製品を提供しているのですから。

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不安いっぱいの中ひたすら10�Hのブレーキ暖気を続けている様子です。

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意を決して最後のブレーキングです!

無事テスト終了してようやく取れた認定車両。その名は<オッテンバー>。名前はユーザーが決めました。
たぶんアクセルを開ければ一気にウイリーして、押さえの効かないオートバイをイメージしたのでしょう。当社オリジナルアルミフレームの中に収まっている500ccビック2サイクルエンジン。この車両はとても思い出深い車両です。
こんな経験があったので、その後クラブマン誌企画のKLX650にナンバー取得の依頼があった時2度目のブレーキ試験はとても楽に行えました。ブレーキ試験というものを実際に行ったことで、性能をデータで示す重要性をあらためて認識しました。フレームにかかる応力は果たして机上計算だけで把握出来るのだろうか?もしかしたら、ただ強いだけのフレームになってはいないだろうか?それを解決するためには、実際に走行してフレームにかかる応力を測定するしかない、という結論に辿り着き、ブレーキ試験時にお世話になった計測器メーカーと相談し、メーカーも使っているフレームの応力を計測する機器を購入しました。非常に高価な機器ですがすばらしい性能をもっています。これも二輪用ではないのですが私共で改造し走行中のフレームの応力を計測できるようにして使用してみましたが、これが本当にすばらしいんです!コンピューターと併用してデーターを解析できて、走行中や制動時のフレームにかかる応力が判るのです。
これを使うとどこに補強を入れるかとか、製作したフレーム材質の適合性等も解析可能です。
今まで「たぶんこうだ」の「たぶん」が消えました。
この機器を使って製作した車両が「GLUGLU850」です。この車両は「性能を体で体感できる」がコンセプトである為、しなるように設計しています。簡素なフレーム構造ですが適度なしなりがあり、現在市販されている高性能のバイクように闇雲に堅いだけのフレームではなく、乗って楽しいフレームです。
しかも試作で数個のフレームを製作しましたが、材質によって乗り味が違うのです。その違いは材質による応力の掛かり方や、補強の入れ方で大きく変わります。それがある意味での「フレームの味」だと思いますが、それを私たちは数値で判断することが可能なのです。しかも、この機器はフレームの改造にも充分威力を発揮してくれます。感に頼った加工がデータに裏付けされた加工になるのです。現在は、機会ある事にデータ収集を行いフレーム製作に役立ています。

いままで様々な事をしてきましたが、本当にメーカーはすごいと思います。
万人が乗っても問題ない車両を、しかも大量生産が可能なのです。これはすごいことだと思います。
私たちは弱小メーカーですが、これからもがんばって皆さまのご期待を裏切らない車両を作っていきたいと思っています。

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